クレア=エリス著/増永 豪男訳『カルチャーショック07 ヴェトナム』河出書房新社 1998

1999年10月10日


 カルチャーショック・シリーズのベトナム編の原書の翻訳に、

をくわえた日本語版は、元の本よりすぐれたもの(マシなもの)にはなっているようです。

 第1章は地理をとりあげています。おおよそ南部から北部にかけて、地域のようすをかいつまんで説明しています。地域や街のことをいうのに、ヴェトナム戦争やフランス植民地時代のこと・グエン朝などをもちだすこと自体は、けっこうなことなのかもしれません。しかし、つぎの章で解説するはずの歴史の知識をことわりなく流用してしまうといううかつなことを何度かしています。

 著者は、

 中国、ラオス、カンボジアと国境を接し、東アジアの中央という地理的位置が、戦争に引き裂かれるヴェトナムの歴史を描いてきた。(p13)
 または、第2章のはじめの方で、
 平和が続いた期間がほとんどなく、その少ない平和な時期さえ、ヴェトナムは他国の影響下にあった。それはこの国がインドシナ半島にあり、東アジアの中心にあるという地理的条件のゆえである。(p41)
と書いています。ヴェトナムを東アジアの中心にあると認識しているようですが、そのわけはあきらかにされません。
 ヴェトナムは東アジアの国なのでしょうか。かりに東アジアの国だとしても中心にあるといえるのかどうか、疑問におもうところです。

 第2章は歴史です。黎明期からドイモイまで20ページにもみたない記述で、駆け足の駆け足、中途半端なつぎはぎ状態です。すでにある程度の歴史が頭にはいっている人以外、わけがわからないでしょう。
 戦争の影響でハノイから南部へ移住してきた54年組と75年組のことをしるしています。そこに着眼した点はいいとおもいました。 

 以下、第3章は民族や文化・宗教にかかわること、第4章は、ヴェトナムで暮らすコツ、第5章はコミュニケーション(言語など)、第6章は行事、第7章はヴェトナム式ビジネス、第8章は食べ物となっています。
 読む気をなくさせるようなデキのわるい第1章と第2章をよみきるか、あるいは、とばすかすれば、あとは意外なほどよみやすい文章です。

 原書の翻訳文と〔〕内に付記される情報との相違、また、コラム・写真の混在は、ほとんどの読者にちぐはぐだという印象をあたえるでしょう。ですが、おかげでそこそこよめるものになっているのも事実です。遠藤 一弥・鈴木 真・馬渕 広子・山口 英子の4人は(写真の提供にとどまらず)大なり小なり日本語版の作成にも協力しているのでしょう。

 欧米人たち(英語圏の人たち?)の視点でみるベトナム人というものを、多少なりとも知ることができて、これはこれで興味ぶかいものがあります。

 いくつか知らなかったことをおそわることができました。資料としては、やくにたつことでしょう。 ベトナムを知ろうとしている人たちのあいだで、タタキ台にするのに、てごろな本かもしれません。

 ところで、かりにコラムと写真をとりさってみたら……。おどろいたことに、原書は文化について書かれた本という感じがぜんぜんしないのです!農・工・サーヴィス業などに関する具体的な情報がほとんど掲載されていないことをのぞけば、まさしくビジネスマン用の実用的でお手軽な「ベトナム理解」の本といえるでしょう。
 じっさい、この本でとくによくできているところをしらべてみると、第4章と第7章がうかびあがってきます。歴史や文化の説明よりも、ビジネスむけのハウツーのようなところがさえています。

 題名は『120分でわかるベトナム人』というようなものにして、書店ではアジアの本や旅行本よりもビジネス書の棚においた方が、うれゆきはよくなるのではないでしょうか。


注記:
 以上の文章を書くとき、英語版のレビューを参考にしました。


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