今年(1998年)のゴールデン・ウィーク前後に、またヴェトナムへ行きました。このときは、旅行期間が短いなりにお金の余裕があったので、ハイ・バー・チュン通りかドン・コイ通りあたりのホテルに宿泊するつもりでいたのです。
わざとやっているのではないか、と疑いたくなるくらいのろい入国審査がやっと終わり、税関を通り、両替のために列をつくっていました。
前に並んでいた人に「日本人ですか?」と声をかけられました。山吹色のシャツがよく似合うふち無しメガネをかけていた女です。なかなかかわいい。
成り行き上、タクシーを相乗りすることになりました。彼女が目指していたのがファン・グー・ラオ通りです。当初の予定になかったことですが、お付き合いすることにしました。
空港からのタクシーで連れになった人は、バンコクのカオサン通りのゲストハウスに1泊80Bで泊まっていた、と言います。安かろう悪かろう、でもないらしく、「狭いんですけど、いちおうシングルです。私のいた部屋には、こんなに(と手で25センチ四方くらいの大きさを示しつつ)ちっちゃいけど窓もありました。……シーツも毎日取り換えてくれます。……ええ、ホットシャワーが出ます。シャワー・トイレは共同でした。いつもきれいです。清潔なんですよ、(ゲストハウスの人たちが)いつも掃除してくれてるんで。」という話をしてくれました。
「(国名が)イで始まる国で泊めるのは、イギリス人だけ」で「イスラエル人・イラン人・イラク人・インド人は駄目」というところだそうです(イタリア人はどうなのでしょうか?びっくりしてしまい、聞き忘れました)。「人種差別入っているけど……」、とそこだけは声をひそめるように言います。宿泊客は日本人が1番多いらしく、彼女が泊まっていたときは大半を占めていたそうです。
宿泊代にどれだけお金を使うかという話になりました。ヴェトナムでは、1泊の最低ラインが5ドルくらいからです、という話をしました(もっと安いところもあるようですが、シングルの部屋はそのくらいからでしょう)。彼女は、1泊5ドルも出さなければいけないのか、とずいぶん気をもんでいました。
ヴェトナム旅行はタイと比べてなにかと金がかかります。宿泊代・交通費・見物費(多くの場合に外国人料金が適用されます)は高めなのです。出入国にヴィザが必要なことも考えなくてはいけません。まっとうな節約旅行を志す人にとっては、近寄りがたいところなのかもしれません。
ファン・グー・ラオ通りは名所でもなんでもない、と前号に書きました。ホテル代が安いというメリットをそれほど切実に受け止めなくてよい方、とくに日本で勤め人をしていて「今は多少のお金よりも時間そのものが貴重です」と感じる方は、行かなくてもまったくかまわないところです。カフェのツアーを利用するつもりのない方は、なおさら。
ツアーに参加すると、いっしょにいる外国人旅行者(含む日本人)と仲よくなれることもあります。外人同士での交流が目的の人には、むしろいいのかもしれません。しかしながら、ガイド以外のヴェトナム人と付き合う機会はほとんどないでしょう。
「ヴェトナム人とのお付き合いがヴェトナム最大の魅力です」とおっしゃる方も少なくないことを附言しておきます。
来てあらためて気づいたこと。
いわゆる欧米人(白人?コーカソイドと書く方がいいのでしょうか?ご教示請う)は、ドン・コイ通りやレ・ロイ通りにも多いですが、それなりに金持ちであまり人ずれしていない感じを受けます。どちらかというと、年配の方が多い。
ファン・グー・ラオ通り一帯は、簡単に言ってしまえば、その逆です。
ある日の真っ昼間に、デ・タム通りのジュース屋の店先で、マンゴージュースの入ったグラス越しに、セックスの話をあからさまに喋り散らしている不良外人どもがいました。2人ともそろって髭面で短パン、よれよれのアロハみたいにぶかぶかなTシャツを着ていました。旅の疲れなのか、格好のせいなのか、たんに歳がいっているせいなのか、妙に老けて見えます。その彼らでさえ、風景の一断片、独特の雰囲気の一部に溶かし込まれ、なぜかそれなりにさまになってしまうようなところがあります。
そこだけ異空間と言い切ることもできます。
外国人バックパッカーたちの租界になっているところはある意味で共通しているものの、バンコクのカオサン通りほど異彩をはなっていない。そういう違いはあるようです。なによりも1番数が多いのは、外国人観光客ではなく、あきらかにヴェトナム人たちです。外国人目当ての商売を営んでいる人たちが目につくのは確かですが、それは場所柄というものでしょう。タイ・ビン市場も生活や買い物の場としての路地も残っています。
1998年8月11日のNHKで、バックパッカーたちを紹介する番組をやっていました。ファン・グー・ラオ通りは世界3大バックパッカー街の1つ、ということになっていました。いったいどういう基準で選ばれたのでしょうか。
日本から持っていくお金はUSDのT/C(トラベラーズ・チェック)にするのが安全で便利なようだ、と書きましたが、そうでもありませんでした。
サイゴン(ホーチミン市)観光エリア内だけに滞在するつもりであれば、日本円の現金で十分なようですし、地方都市を訪れる予定があったとしても、使うお金をすべてUSDに換えていかなくてもいいのではないか、と思います。両替手数料を2重にとられることも考えなくてはいけません。もちろん、すでに換えたものが手元にあるなら、有効活用すべきでしょうが。
よく知られているように、ヴェトナムでは、USDの現金がVND(ヴェトナムドン、ヴェトナムの通貨の単位)同様に通貨として流通し機能を果たしています。USA以上に流通しているのではないか、と皮肉を言いたくなるくらいに。USDの現金は便利です。じっさい1ドル札などの小額紙幣は緊急時(空港で両替できなかったときなど)に重宝します。
安全性を考えると、面倒でもT/Cの方が優れています。USDのT/Cを換金してくれるところは多いですが、日本円T/Cを扱ってくれないところが多い状況はあまり変わっていないようで残念です。
レート(換金率)や手数料は、銀行(もしくは両替所)によっても、同じ銀行でも地方によって、微妙に異なります。現金は手数料をとられることが少ないですが、T/Cは手数料がかかります。そのせいなのでしょうか、T/Cの方にわずかながら高めのレートをつけているところが多いようです。USDをVNDにするときのレートは、額面の大きさによってわずかに変化し、現金でもT/Cでも50USD以上がよい。
CITI BANKのキャッシュ・カードも使えます。シティー・バンク(CITI BANK)の支店はサイゴン(ホーチミン市)やハノイにあり、ATMも設置されているそうです。香港(HONG KONG)銀行でも扱っているらしい。USDかVNDどちらでも引き出すことができるようです。
空港での両替について、いくつか。
タン・ソン・ニャット空港は、出てすぐのところに2ヶ所銀行の窓口があり両替ができます。ノイ・バイ空港も出てすぐのところに1ヶ所あります。
営業時間内に着いたものの、タクシーの客引き攻勢にひるんだせいで、両替を少ししかできなくて、後々困ったことがあります。そうならないように、注意しましょう(←自戒をこめて)。
夜中はやっていないようです(ちなみに、街中の銀行は閉まっていますので)。到着が夜になるとあらかじめわかっている場合は、USDの小金を用意してしのげばいいでしょう。
近いうちにまたヴェトナムへ行く機会があるなら、かなりの割合をUSDのT/Cで持っていくでしょう。地方都市に行くことと安全面を考慮すると、私の場合は、USDのT/Cにするのが便利なようですので。
わかりきったことですが、自分(たち)の旅行スタイルに(ある程度)合わせて、お金を持っていきましょう。
お金のことがこうじて手を出されたのは、とてもいやでした。
乗ったところは、サイゴン川の川沿いに面した表通りからはやや外れた暗い街路でした。
そのシクロ・ドライバーは「自分は道をわかっている」と自信ありそうに言いながら、まったく方向違いのサイゴン川にかかる橋を2度も渡ろうとし(もちろんやめさせました)、そのせいかぐるぐる遠回りし、挙げ句の果てに「わからない」と言うではないですか。しょうがなく、近くの通りで降ろしてもらうことにしました。
降りた後に不当に高い料金を要求されました。事前に交渉した値段しか払わないという態度を見せたところ、上着のポケットにいきなり手を突っ込んできました。その手を払いのけていたときに、後ろから足をかけられ、(それと同時に)身体を押されたのだと思います。転倒させられてしまいました。
仰向けに倒れ、頭をしたたかに打ちました。やっとのことで起き上がると、頭の中が「ぐわーん」と鳴っているようです。後頭部に大きなこぶができていました。肩と腰も打っていたらしく、じんじんと痛みを感じました。
その後、15〜20分ほどしつこく「(おれがここで決めた金額を)払え」と脅しに近い口調で言われ続けましたが、事前に決めた値段以上は払いませんでした。
翌日、いちおう病院に行って検査を受けました。「問題無い」とのことでした。
今回の件で懲りましたので、少なくともサイゴンの観光エリア周辺では、シクロに乗らないようにします。
対策として、
シクロに乗ってみたい人は地方都市で試してみることを、私はお勧めします。
サイゴン(ホーチミン市)のタン・ソン・ニャット空港にたむろしているタクシー運転手の属している会社は、2社あります。Airport taxiとSaigon taxiです。どちらも市内を走っている他社のタクシーよりメーターがはやく回ります。どちらかというと、Saigon taxiの方が微妙に安いように感じていますが、気のせいかもしれません。金額にするとわずかな差ですが、市内に走っている他社のタクシーより高い。
しかも、うっかりしていると、余分なお金を取られることがあります。ホテルに到着したとたん、メーターを取り消され、かかった料金の倍額程度を請求されたことは、前回に述べました。その続きを。
空港からベンタイン市場まで(同一タクシー会社で)行ってもらった場合を比べると、ハイ・バー・チュン通り経由のときの方が、ナム・キー・コイ・ギア通りを通ったときより、じゃっかん高めだったことを思い出しました。
遠回りされていたのかなあ?地図を見ると、そのような疑問が生じてきて、気になりました。
知っている方に聞いてみたところ、やはり遠回りされているようです。やれやれ。でも、ほんのちょっとですけどね。
メーターを使ってもらいましょう。
体験談をひとつ。
(先に述べた)空港でいっしょになった連れが、交渉で1区のファン・グー・ラオ通りまで60000Dでまとめてくれました。それはいいのです。
乗って10分も走らなかったころだと思います。記憶の中にまったくないファン・グー・ラオ通りで降ろされてしまいました。
乗っていた時間が短すぎるのと、旧知の場所とあまりにも違うので、降りる前からおかしいと感じていました。ですが、ずっとしゃべっていたせいで、時間がどれくらいたったのか、自信を持てませんでした。もしかしたら街並みが激変しているかもしれない、とかく変化の激しい(?)ヴェトナムのことだから。そう思うことにして、お金を割り勘で払いました。
タクシーは行ってしまい、私たちは歩きながら周囲をよく見まわしてみました。
どう見ても、ここはサイゴン市街(外れ)のありふれた通りの一つです。バックパッカー街に特有の雰囲気が感じられない。シクロもバイクタクシーも客待ちのタクシーの姿もありません。第一、交通量が少な過ぎます。他の外国人観光客も見つからない。彼女が『地球の歩き方』を片手に道を行きつ戻りつ探しても、シン・カフェは見つかりません。
ようやくはっきりと気づきました。違うところに降ろされたのです。近くにいたヴェトナム人にも聞いて確かめました。
空港からそれほど離れていないところらしい。こちらはヴェトナム語がよくわからないし、ヴェトナム人たちに地図を見せ訊ねても指示してくれなかったので、何区だかもわからない。標識を見ると、たしかにファン・グー・ラオ通りはファン・グー・ラオ通りでしたが。
困ってしまいました。「違うところで降ろされてしまったようですね」と伝えました。すぐに何が起きたかを把握したようです。
途方に暮れながらも、どうしたらいいのかを相談していると、運良くそこへタクシーが通りかかりました。手をあげてタクシーを停め乗りこみます。
今度はメーターを使ってもらっています。
ひとまず気分がおちつくと、思わず笑いがこみあげてきました。なめられたものだなあ、うまくだましてくれたなあ、と。
「サイゴンに不慣れな奴らみたいだから、空港から少し走ったところで降ろしてしまえばいい」とでも考えてやった結果なのでしょう。私(たち)がマヌケだったために、つけこまれたわけです。
なかばあきれ、なかばあきらめの気分でした。くやしいけど、その半面よい勉強をしたなあくらいの感じです。
しばらくして、おしゃべりを再開しました。話題は必然的に件のタクシー運転手になります。自分たちのマヌケさは一時棚上げされ、タクシー運転手のやり口の汚さの方に焦点が向けられたのは、言うまでもありません。
連れは意外なほどにおちついた様子でいます。そして、静かに話します。ですが、ささくれだった発言がずいぶんと飛び出しました。物静かな感じとは対照的です。遅まきながら、芯から怒っているようなのに、気づきました。鈍感だったので、彼女が口を開くまでわかりませんでした。
『もう絶対ヴェトナム人を信用しないと決めました』
とまで断言します。
「1ヶ月の旅行の始めだものなあ。お気の毒に!」
口には出しませんでしたが、同情しました。私はもうちょっとお気楽に考えていたのでした。
これから1ヶ月のサヴァイヴァル用に、ヴェトナム人に理不尽な振る舞いをされたときに唱える呪文を教えて差し上げよう。そういうアイデアが浮かびましたが……。この場では皮肉にしか聞こえないみたいで、やめました。
タクシーは無事にファン・グー・ラオ通りに行き、中ほどにあるデ・タム通りに降ろしてもらいました。タクシー代を合計すると、1人で乗ったときと同額程度のお金がかかってしまいました。
一眼レフのカメラ(などの目立つ貴重品)を下げて歩いても、大丈夫そうなところと大丈夫ではないかもしれないところがあります。
個人的な判断を申しますと、
撮影しているときは、隙が生じがちです。とくにお気をつけください。同行者がいると、注意していてもらえていいと思います。
使い捨てカメラは、使い勝手がいいと思います。盗られても大した被害ではありません(上着のポケットに入れておいた使い捨てカメラを盗られたという報告もありますので)。
私の場合、自宅から空港に向かう途中にカメラを荷物に入れ忘れたことに気づき買ったのですが、思いのほか便利で重宝しました。
ヴェトナムには、サイゴン→ハノイ(ハノイ→サイゴン)間を運行している統一鉄道と呼ばれているものの他に、ハノイ→ハイフォンやハノイから中国へ向かう国際列車などもはしっています。
今回は、統一鉄道について。
いきなりですが、揺れます。揺れに伴う音もかなり激しい。「揺れと騒音のせいで、ろくろく眠ることができなかった」という人もいるくらいです。
乗り心地は座席の種類(=値段?)によるところが大きいか、と思います。
4つソフトベットのあるコンパートメントを(私は)利用しています。疲れたら寝っ転がれて便利です。ごろごろしていられ楽です。
ベットは下段の方をお薦めします。景色がよく見えます。それに上段に上がるのは少々面倒くさいですよね。
悪評高い外国人料金です。ヴェトナム人の約2倍(ちなみに、飛行機も約2倍)です。4ソフトベットのコンパートメント以上ですと、飛行機とそれほど大きな値段の差はない。
サイゴン→ハノイまで(その逆でも)車中で2泊することになります。飛行機が飛んでいる時間は2時間程度だというから、……。何を言わんやですね。時間に余裕のある方向きです。
(↑私はフエでいったん降りました。車中で2泊はいかにもしんどそう!)
自らの持ち物の管理に注意を払うことが必要です。
などと書いていますが、じつは盗られたことがあります。
下段のベットの下に荷物入れがあります。そこに入れておいたリュックサックから小型のテープレコーダーを盗られていました。トイレに行って部屋を離れたときにやられたのでしょう。そう推定しています。ニャチャンまでコンパートメントに私1人だけで荷物番を頼めなかったことや、リュックサックの上部に入れておいたことなどが、アダになってしまったようです。べつに大した物ではないし、保険会社への請求も認められましたので、実害は少ないですが、気分は悪かったです。
一人旅の場合は、貴重品や盗られるといやなものの管理に気を使うかもしれません。二人以上でしたら、交代で荷物に目を配ればいいので、ずっと気は楽だと思います。
天気がよければ、ハイヴァン峠(ダナンからフエへ向かうとき登る)の景色は、すばらしいものです。のろのろと進む列車から、空と海の青、峠の草木の緑、クリーム色でアサガオに似た花が群生し咲きほこっていた様子が、思い浮かびます。
(↑ヒルガオ科だったのかしら?ヒルガオやアサガオと同種の花だったと記憶していますが、勘違いかもしれません。)
その他のこと。
路線バスは、サイゴン・ハノイ・ダナンなど大都市の中心から市郊外まで走っています。これが意外と便利なのです。
ベン・タイン・バスターミナル(サイゴン)→ビン・タイ市場(チョロン)だけではありません。
とくに利用価値が大きいのは、ダナン→ホイアン(ホイアン→ダナン)でしょう。タクシーやバイクタクシーを利用するより断然安い。もっとも、ヴェトナム人には11000VNDでチケットも渡しているのに、外国人であるのが明らかなせいか、私には交渉を持ちかけてきました。とくにおどろくべきことではないのですが、サイゴンやハノイの路線バスではヴェトナム人と同じ料金で乗せてもらっていたので、びっくりしました。
サイゴン(ホーチミン市)のバス路線図は、ベン・タイン・バスターミナルで売っています。区ごとに色分けされていたりして見やすいように工夫されています。市内地図としても使えます。路線バスを利用しサイゴンの街をじっくりと見たい人はもちろんのこと、旅行者として行く機会のある人たち、ぜひぜひ路線図をご購入あれ。そして、バスに乗ってみましょう。
サイゴン(ホーチミン市)やハノイなどから、ふつうの中長距離バス(通称:ローカル・バス?)に乗るには、向かう方面に応じたバスターミナルへ。例えば、サイゴンからメコンデルタの各都市に行く場合は、路線バス等でミエンタイ・バスターミナルに移動しなければいけません。
切符はその場で買えばいいでしょう。テトの前後などの混雑が予想される時期でもないのなら、切符を前もって買っておく必要はないと思います。
中長距離を移動するバスとして、他にツアー会社によるバスがあります。なぜかオープン・ツアーかオープン・ツアー・バスと呼ばれています。オープン・ツアーは、ツアーと名はついているものの、単に「ツアー会社のバスによる移動」です。
ツアー会社が
乗客はすべてといっていいほど外国人です。外国人(旅行者)相手の商売ですから。
参考までに、ハノイとサイゴン両都市でのツアーとツアー会社・カフェは、『地球の歩き方 旅マニュアル271 ベトナム個人旅行』のp148〜165に詳しく載っています。
旅行者の間で(ときに在住者にとっても)、何かと話題になる『地球の歩き方』などのガイドブックですが、みなさんはどのように利用していらっしゃるのでしょうか?また、記述の内容はどの程度信用されているのでしょうか?
まず最初に問うべきことは、「ガイドブックに何をどこまで期待するのか」という問題でしょう。
情報満載の旅のマニュアルを求めている人もいれば、トラブルが起きて困ったときだけ見ればいいや程度に考えている人もいます。安宿の情報が少ないと文句を言う人から高級ホテルやショッピングの情報をもっと充実させてほしいと言う人まで、旅行スタイルによって異なるさまざまな期待や要望があると思います。
私はこう考えています。もしかしたら旅のおもしろさを味わう手助けをしてくれるかもしれないものの、旅行のおもしろさや楽しみは基本的に自分で見つけるものだ、と。希望がかなえられるならば、読みものとしてもおもしろく楽しく読めるものがほしい。
ガイドブックは旅行者の手助けになっているのでしょうか?私自身は、なんともいえないなあ、というのが実感です。
旅行者に聞いてみると、これにもさまざまな反応があります。私の見聞した範囲では、できに満足しているかどうかはともかくとして、とくに疑問を感じない人が一番数が多いようです。しかし、逆にあれこれ不満を述べる方も少なくはありませんでした。ほんの少数ですが、ガイドブックの不適なところを突いた手厳しい批評をする方もいました。
『地球の歩き方』に期待を持ち過ぎたゆえの反動でしょうか(どうしようもなく使えないガイドブックだと本当に実感したうえでの文句でしたら同情はします)、「あれは『地球の迷い方』だ」と悪く言う人たちもいますが、過剰な期待や反感をもつ態度をあまり好きにはなれません。
しかしながら、「ガイド」ブックという名称に反するかのように、その国その地方の歴史や文化について通り一遍のことしか書かれていない。薄っぺらい説明で、そもそも説明してある分量が少ないのも、さびしいものです。
紙面を埋めている文章そのものも、一見客観風な、じつはただ無味乾燥であじけないだけのものです。
ガイドブックの文章の他の特徴を挙げてみましょう。
そして、ヴィジュアル重視です。写真が数多く入っていることが、結果としては、読むに耐えない文章の欠点をも補い、彩りをもたらしています。
文章軽視の傾向は、ヴィジュアル系の雑誌の旅行記事に著しいことです。「文章は写真のツマ」(←「刺身のツマ」のツマ)程度にしか認知されていないのかもしれません。
日本製のガイドブックは、文章をあまり大事にしていないのではないでしょうか。
反面、英語のよくできたガイドブックは、文章による説明が基本になっていて、きちんとわかりやすく説明しようという意志と努力の跡が見えるようだと感じています。
もっとも、英語ガイドブックの多くにも欠点はあります。前に述べていることの裏返しですが、例えばロンリー・プラネットなどは文字による情報を重視し過ぎています。写真はなまじの文章を超える情報量を持っていることがあります。カラー写真でホテルや名所が出ていれば、一目瞭然なわけですから。言葉をたくさん費やす説明よりわかりやすいことがしばしばあるのです。
最後にひとつだけ。ここではふれることができなかったのですが、持っていかない・使わない・見ない、つまり、ガイドブックに関心なく関係もなく旅行している人たちがいるのも忘れてはいけないと思います。
結論から言いましょう。
『地球の歩き方』と『個人旅行』は、間違っている情報は少なくないものの、旅行者自身が直して使うことができれば、十分役に立つでしょう。
間違い探しもガイドブックの(正当な?)楽しみ方の一つだと思います。まあ、それくらいの余裕を持ってガイドブックを見つめることができれば、しめたものです。私は旅行中ずいぶんとこれで暇つぶしをさせてもらいました(「悪趣味だ」とおっしゃる方もいましたがね)。
『地球の歩き方』と『個人旅行』はだいたい1年に1回のわりで改訂版が出ています。年次を追って見てみると、再取材してホテルやレストランの情報を差し替えたり追加したりしてします。この2つはけっこういい線いっているのではないか、という感想を持っています。
ホテル関係の情報は『地球の歩き方』より『個人旅行』の方がいいと思います。写真付きのホテル・カタログになっているところが画期的です。
前述の『地球の歩き方 旅マニュアル271 ベトナム個人旅行』もまあまあです。情報が古びていないのが魅力です。
ヴィザの件のように旅行を左右しかねない重要なことをしっかりと間違えているのは、困りものですけど。
しかし、地球の歩き方編集室は、同じようなガイドブックを2冊つくってどうするつもりなのでしょうか?棲み分けできるのかなあ?こっちも毎年改訂してくれるのかなあ?ちょっと気になります。
(付記)『地球の歩き方』ホームページによると、改訂版『地球の歩き方』が1998年11月27日に出る予定だそうです。
他のガイドブック(的な書籍)2〜3冊について、一言ずつくらい批評を述べましょう。
福井隆也・小林紀晴・関口左千夫『新版 ベトナム・センチメンタル+ラオス、カンボジア』情報センター出版局 1997年第2版
の写真はたしかにいい。
しかし、悪い意味で総花的で、中途半端です。文章も『地球の歩き方』とあまり変わらない。もっと筆者たちの主観を前に押し出して書けばいいのに。カタログにも読みものにも徹しきれていない。特徴に欠ける一冊です。
文春ビジュアル文庫の
勝谷誠彦編『ベトナムに行こう』文春文庫ビジュアル版 1997
は、帯で『2冊目のガイドブック』をうたっていますが、中身は紀行文集です。ヴェトナム近現代建築について10ページ強の記述があります。これは、あの文集の中では、一押しです。
JTB出版事業局『るるぶ 情報版 海外25 ベトナム・アンコールワット』JTB 1998
『るるぶ……』は、書店かなにかで見るだけにしておきましょう。
旅行人編集室編『旅行人ノート3 メコンの国』旅行人 1996
『旅行人ノート3 メコンの国』は、骨と皮だけになったロンリー・プラネットという感じです。バックパッカー用。中国〜ラオス〜カンボジアと旅する方(とくに陸路で)向けでしょう。
ロンリープラネット
Robert Storey,Daniel Robinson"Lonely Planet Vietnam "Lonely Planet 1997(4th edition)(第1版は1991年 )
などの英語のガイドブック3冊ほどをところどころ読んでみました。それから判断しますと、ヴェトナム編に限っては、英語のガイドブックも大したことはないようです。
他の地域と比べ後手に回りがちなようで、載せられている情報の精度がそれほど高くない。ことさら様子が変わりやすいサイゴン(ホーチミン市)やハノイの古びて使い物にならない情報が平然と(?)載せられています。
英語で読むのをあまり苦にしない人なら、いいのではないでしょうか。あまりつよくお薦めはしませんけど。
個人的にお薦めのヴェトナム本を挙げてみたいと思います。
薄いながら非常に手際よくまとまっている本が
坪井 善明『ヴェトナム「豊かさ」への夜明け』岩波新書1994
です。
坪井氏は編者・監修者として、
坪井 善明編『暮らしのわかるアジア読本ヴェトナム』河出書房新社1995
に関わっています。優れた概説書です。すべて読みきれなくても、コラムを拾い読みするだけでも楽しい。
岡林 ゆかり『ベトナムで赤ちゃん産んで愉快に暮らす』筑摩書房1996
じつはタイトルをちらっと眺めていただけで長い間敬遠していたのです。市場や売られている食材や子供の学校のことなど、他書に書いていないことが数多く取り上げられています。『毎日市場で目新しい食材を買い込んできては実験するように料理を楽しんでいる』なんていいではないですか。
いまさら紹介するのは気が引けますが、
本多 勝一『本多勝一集 第10巻 戦場の村』朝日新聞社1994
は、ヴェトナム戦争の臨場感あふれるルポ・タージュです。朝日文庫にも入っています。
バンコクを経由したせいもあり、
前川 健一『タイ・ベトナム枝葉末節旅行』めこん1996
は、とてもおもしろく読めました。ヴェトナム人カップルのじゃれ合う様子や出される食べ物の温度からタイ料理との相違を指摘しています。感心させられたところは多い。『白いアオザイで、パンツが透けて見えないものはニセ物である』と言い切っています。
メコン河に興味を持つ方には、
石井 米雄(文章)・横山 良一(写真)『メコン』めこん1995
がいいでしょう。ヴェトナムに関係する記述が少ないのは、著者の専門外だからなのでしょうか。ひょっとしたら、『いやがる私に「無理やりに」この本を書かせた……』という成立事情のせいかもしれません。
カラオケをテーマにアジアの国々を周った
大竹 昭子『カラオケ、海を渡る』筑摩書房1997
は、目のつけどころがとてもいい。日本で発明されたにもかかわらず、カラオケの伝播について書かれた本は意外と少ないそうです。『愛すべきローテクカラオケ』と『歌における北と南』という章にヴェトナムのことがあります。
村井 吉敬『エビと日本人』岩波新書 1988
日本の主要なエビ輸入先の一つはヴェトナムです。この本にはヴェトナムはほとんど登場しません(が、適当な類書がないので紹介しています)。もっぱらインドネシアや台湾などと日本での調査が主です。エビを通して日本と東南(東)アジアの関係に思いを馳せていただければなあ、と。ちょっと古い本です。
<路上編>
<食事編>
<移動編>
以上(右)の文章は1998年10月01日の時点でまとめたものに手を入れたものです。
『地球の歩き方』の最新版(奥付けによると、12月11日発行とのこと)は、とっくに出版されています。リニューアルしましたね。本文と関連することについてコメントします。
"Lonely Planet Vietnam"は第5版が出たようですが、まだ見ていません。『旅行人ノート……』も6月ごろに改訂版が出るそうです。
ガイドブックの購入を考えているのであれば、現時点では『地球の歩き方』の最新版が1番いいと思います。『個人旅行』の改訂版はまだ出ていないようですから。
不確かな話で申しわけないのですが、ニャチャンなどでオプショナル・ツアーにヴェトナム人(越僑?)の利用客も散見されるようです。現状と近い将来はともかく、この先、外国人の観光客相手の商売と言えなくなるかもしれません。
1999年9月20日
1999年3月末にしおたさんの掲示板を使わせていただき希望者にメール配布したものと、ほとんど内容は変わりありません。WWWで公開するにあたって、文中のメールアドレスやあきらかな誤字・脱字、意味の通りにくいところなどを、(最低限ですが)書き直しました。
読んでくれた方々からメールでいただいた感想を手短に紹介しますと、
『旅行人ノート……』も9月になってからようやく改訂版が出ました。『個人旅行』の改訂版はまだ出ていません。
この文章は、私が見たり聞いたりしたことを書いたものです。ですから、とくにこれといった参考資料はありません。
しおたさんの掲示板での自分の投稿やフォローが初出です。 文中にはとくに挙げませんでしたが、いちおう列記しておきます。
他にも何冊かのガイドブックを資料として利用しました。併記しておきます。
しおたさんをはじめ掲示板で私の記事にフォローしてくれた方々・フォローさせてくれた方々にあらためて感謝いたします。
ご意見・ご指摘・ご感想等は、ふるや(moto@ua.airnet.ne.jp)までお寄せください。こちらのフォームもご利用いただけます。
じっさい旅行する方へ。日程には余裕をもって。もし旅行プランに迷いがあるようでしたら、一言だけ言わせてください。サイゴン(ホーチミン市)の滞在は、短く抑えるのがコツです。
旅行してヴェトナム人やヴェトナム人社会をどう感じたのでしょうか?よかったら、教えてください。