お悩み:ケーキを7等分するうまい方法はないでしょうか?
ケーキにしても果物にしても、半分とか4等分、8等分と2の倍数に分けるにはあまり苦労しません。奇数でも3等分ならなんとなくできますので、6等分でもまず半分にしてそれを3等分すれば簡単です。しかし5等分とか7等分となりますとどうしたらいいのかぐっと難しくなります。
私の家は普段は妻と義母との3人暮らしですので、ケーキでも果物でも3等分ですから困るようなことはないのですが、近くに住む娘の家族4人がやってくると7等分しなくてはいけない機会が多くなります。特に高価なケーキとかメロンになりますと子供も大人も真剣に大きさを比べますのできれいに7等分しようといつも苦労してきました。なんとなくこれくらいか、と切り始めますと、途中でなんだかおかしなことになり結果はたいてい不満足です。そこで今回ちょっと腰を据えて、いい方法はないかと考えてみました。
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■アバウトで7等分に近づく
そもそも7等分するといっても工業製品をつくる話ではありませんし、ほぼ7等分であればよいということになりますと発明原理では<#16 アバウト原理> が思い浮かびます。これは、要求仕様を少しだけ緩和したりすると問題が解決することがあるという原理です。今回のケースでは、所詮はケーキや果物を分ける話ですから7等分とはいえ完璧に同じ大きさに分けなくても、人がみてほぼ7等分になっていればよいではないかと考えるわけです。一方で、2の倍数等分とか3等分は悩まずにできるわけですから、このあたりの組み合わせで7等分にうまく近づければよさそうな気がします。
そこでこのように考えてみました。7等分するには、まず8等分してできた8切れの内7個を各人に1つと、残った一切れを7つに分けて各人に加えればよい。つまり
7等分の一切れ = 8等分の一切れ + 8等分の一切れの7分の1
と考えることができます。
ホールケーキをイメージします。8等分の一切れの大きさは4等分の一切れの半分ですから大きさはイメージできます。その8等分の一切れの大きさはそう大きくありませんので、それを3:4に分けたとして仮にそれらをa切れ、b切れと呼びましょう。もとのケーキを半分にしたものは8等分の一切れが4個とれる大きさですのでそれにb切れを足してできる大きなかたまりを4等分すれば、それは元のケーキを7等分したときの一切れになるはずです。これを「正7分片」と呼びましょう。大きなかたまりを取った残りの小さいかたまりを3等分すればそれはやはり元のケーキを7等分したときの一切れになるはずです。こうすれば全体を正確に7等分できることがわかります。
実際に8等分の一切れをほぼ3:4に分けるのであれば、半分よりやや左寄りに分ければよいのですが、「やや」のところが微妙です。もし「半分よりやや左寄りに切る」のと「半分のところを切る」のが、結果的にあまり違いがなければ「半分のところを切る」ほうが簡単です。そこで両者の違いを数字で検証してみました。
丸いケーキ全体の中心角を360°とし、一切れの扇形の大きさを中心角で示します。
上記の「半分のところを切る」方法でつくった大きなかたまりを4等分して出来た一切れを「大概7分片」と呼ぶことにしますと次の数字がでてきます。
1) 正7分片の中心角= 360°( 1/7 ) = 51.4°
2) 大概7分片の中心角= 360°( 1/2 + 1/16 )÷4 = 50.6°
大きなかたまりを切り取ったあとの小さなかたまりを3等分したものを「小概7分片」と呼ぶことにしますと中心角はつぎの数字になります。
3)小概7分片の中心角= 360°( 1/2−1/16 )÷3 = 52.5°
大概7分片も小概7分片も正7分片に近く、「大概7分片」と「小概7分片」の中心角の違いも2.1°ですから全体の中心角360°の1パーセント未満です。ケーキそのものがクリームやチョコレートの付き具合など均一ではありませんので、ナイフで切る場合の中心角の1パーセント未満の多寡は誤差の範囲と考えてよいでしょう。つまり、実用的には十分に七等分できていることが分かりました。上記の式2)3)で表される切り方を[7等分手順]と呼ぶことにします。
[7等分手順]の大きいかたまりの中心角=360°( 1/2 +1/16 )=202.5°
と正7分片4個分の中心角205.7°との差は3.2°です。これは、直径20cmのケーキの外側において5.6mmの違いになります。直径30cmのケーキでは8.4mmです。従いまして、大きなかたまりと小さなかたまりを切り分けるとき[7等分手順]なら、僅かに(直径20cmのケーキなら外側で5mm程度)左寄りに切ればより正確な7等分ができることになります。
以上まとめますと、発明原理<#16 アバウト原理> による7等分方法はつぎの図で示すものになります。
手順を書きますと、
[7等分手順]
(1) 中心から外に半分だけ切ります
(2) ぐるりと180°まわして、切れ目を向こう側にします
(3) 切れ目を通る中心線から左下の四半分をイメージします
(4) 左下四半分をさらに半分にした2つの扇形をイメージします
(5) そのうち右側の扇形の中央線をイメージし、それに沿って中心から外に切ります
このようにして大きいかたまりと小さいかたまりができます
(6) 大きいかたまりを半分にし、それらをさらに半分にすると4つの大概7分片ができます
(7) 小さいかたまりを3等分すると3つの小概7分片ができます
次の写真は、オレンジ色の紙の円をケーキに見立てて[7等分手順]に忠実に沿って切ってみたものです。いかがでしょうか。
目視する限りほぼ正確に7等分されているように見えますのでこれで十分と思いますが、手順(5)で切るとき、ほんの僅か(直径20cmのケーキの場合で5mm程度)左寄りに切れば、より正確な7等分ができるはずです。(7)で3等分するときは、(6)でできた一切れの大きさと同じ大きさの一切れを切り取り、残りを2等分すれば簡単です。
私の家にはこれからも娘家族がしばしばやってくるでしょうから、ケーキでなくてもリンゴや柿、梨やメロンを7等分するのが楽しみです。
■5等分にも
ここまで来ますと5等分の切り方も考えてみたくなります。
やはり<#16 アバウト原理>ですが、7等分の方法の過程でできる大きなかたまりと小さなかたまりを眺めていますとそのまま5等分するのにも使えそうな気がします。実際に大きなかたまりと小さなかたまりそれぞれを3等分と2等分してみますと、結構似た大きさになることがわかります。では数値的にどうなるのか検証してみましょう。
正確に5等分した一切れを「正5分片」、大きなかたまりを3等分して出来た一切れを「大概5分片」と呼ぶことにしますと次の数字がでてきます。
1) 正5分片の中心角= 360°( 1/5 ) = 72.0°
2)大概5分片の中心角= 360°( 1/2 + 1/16 )÷3 = 67.5°
大きなかたまりを切り取ったあとの小さなかたまりを3等分したものを「小概5分片」と呼ぶことにしますと
3)小概5分片の中心角= 360°( 1/2−1/16 )÷2 = 78.8°
となり、大概5分片と小概5分片の中心角差が11.3°になります。これは全体360°の3パーセント(0.0313)ですのでこれも誤差の範囲と考えられなくはないでしょうが、[7等分手順]の誤差よりやや大きいので、もう少し誤差少なくする切り方を考えてみましょう。
上記2)と3)の式を見てみますと、大概5分片の中心角がやや小さく、小概5分片の中心角やや大きいことがわかります。そこでこれらに1/32の調整をしますとつぎのようになります。
2‘)大概5分片の中心角= 360°( 1/2 + 1/16+1/32 )÷3 = 71.3°
3‘)小概5分片の中心角= 360°( 1/2−1/16−1/32 )÷2 = 73.1°
これによりますと、正5分片との中心角の差は、1°くらいで、大概5分片と小概5分片の差も2°未満という申し分ない分け方になります。
これは[7等分手順]の(5)を次のように変えたものになります
(5‘)その扇形のさらに半分の2つの扇形をイメージし、そのうち左側の扇形の中央線に沿って中心から外に半分切ります。
これを示したのが次の図です。
全体の手順は以下です。
手順を書きますと以下のようになります。
[5等分手順]
(1) 中心から外に半分だけ切ります
(2) ぐるりと180°まわして、切れ目を向こう側にします
(3) 切れ目を通る中心線から左下の四半分をイメージします
(4) 左下四半分をさらに半分にした2つの扇形をイメージします
(5) そのうちの右側の扇形をさらに半分にした2つの扇形をイメージします
(6) そのうちの左側の扇形の中央線をイメージし、
それに沿って中心から外に切ります
このようにして小さいかたまりと大きいかたまりができます
(7) 小さいかたまりを半分にすると2つの小概5分片ができます
(8) 大きいかたまりを3等分すると3つの大概5分片ができます
小さなかたまりを2等分する方を先に書いたのには理由があります。
それは2等分する方がやりやすいからです。小さなかたまりの2等分をつくれば、小概5分片が2つできますので、大きなかたまりを3等分するときには小概5分片にあわせて一つ切り出し、残りを2等分すれば簡単です。
[5等分手順]の大きいかたまりの中心角
360°( 1/2 +1/16 +1/32 )=213.8°
と正5分片3個分の中心角216.0°の違いは2.2°です。これは、直径20cmのケーキですと外側において3.8mmの違いになります。直径30cmのケーキでは5.8mmです。従いまして、大きなかたまりと小さなかたまりを切り分けるとき[5等分手順]でも、僅かに(直径20cmのケーキなら外側で4mm程度)左寄りに切ればより正確な5等分ができることになります
次の写真は、オレンジ色の紙の円をケーキに見立てて[5等分手順]に忠実に沿って切ってみたものです。
いかがでしょうか。目視する限りほぼ正確に5等分されているように見えますのでこれで十分と思いますが、手順(6)で切るとき、ほんの僅か(直径20cmのケーキの場合で4mm程度)左寄りに切れば、より正確な5等分ができるはずです。(8)で3等分するときは、(7)でできた一切れの大きさと同じ大きさの一切れを切り取り、残りを2等分すれば簡単です。
■まとめ
以上、連載第10回でご紹介しましたことをまとめますと以下になります。
■ケーキを7等分するには発明原理の<#16 アバウト原理>を適用して、半分あるいは四半分をイメージすることを組み合わせた、つぎの手順で可能です。
[7等分手順]
(1)中心から外に半分だけ切ります
(2) ぐるりと180°まわして、切れ目を向こう側にします
(3) 切れ目を通る中心線から左下の四半分をイメージします
(4) 左下四半分をさらに半分にした2つの扇形をイメージします
(5) そのうち右側の扇形の中央線をイメージし、それに沿って中心から外に切ります
このようにして大きいかたまりと小さいかたまりができます
(6) 大きいかたまりを半分にし、それらをさらに半分にすると4つの7分片ができます
(7) 小さいかたまりを3等分すると3つの7分片ができます
■ケーキを5等分するには、つぎの手順で切ります。
[5等分手順]
(1)〜(4)は[7等分手順]と同じ
(5) 右側の扇形をさらに半分にした2つの扇形をイメージします
(6) そのうちの左側の扇形の中央線をイメージし、
それに沿って中心から外に切ります
このようにして小さいかたまりと大きいかたまりができます
(7) 小さいかたまりを半分にすると2つの小概5分片ができます
(8) 大きいかたまりを3等分すると3つの大概5分片ができます
上記7等分手順、5等分手順いずれにおいても、小さいかたまりと大きいかたまりに切り分けるとき、大きいかたまりがほんの僅か(注)に大きくなるように切れば、より正確な等分ができます。
注:直径20cmのケーキの場合、外側で5mm程度