1.はじめに

 私はコーヒーを愛する消費者の一人としてより美味しいコーヒーの抽出方法を探究しておりますが、本稿はその過程における一報告とさせていただきます。 私の最初の報告は、「コーヒー文化研究」no.12に「コーヒー飲ブラック」のタイトルで掲載されました。

この時の報告の主眼は「よいコーヒー」の基準として「ブラックで飲めるかどうか」を提案するものでしたが、同時に「サイクロン式」抽出法の紹介も兼ねておりました。この方法で抽出をすればまろやかですっきりした味のコーヒーを安定して淹れることができます。しかしながら、この「サイクロン式抽出」をするための抽出器は市販されていないため一般の方が自ら試してみることは困難でした。どこかでこれを製品化していただければ、と思っていましたところ、ある中堅企業でコーヒーメーカーも製造されている会社とたまたまつながりができ、商品開発部の方に抽出法の説明と実演をいたしました。何人もの方が美味しい、といわれなんとか製品化したいと4ヶ月も努力していただいたようですが、残念ながら製品化には至りませんでした。理由は、蒸らし・抽出のタイミングなどを総合的に再現できる機体の試作が難しいということでした。一般家庭の方を対象とした製品となるとやはり単純な操作だけで美味しいコーヒーができることが必要と改めて認識いたしました。そのようなこともあってスイッチ操作だけでできるサイクロン式のコーヒーメーカーが試作できないものかと思い工夫を重ねなんとか完成いたしました。大きくて不恰好なものですがメカ的にはこうすれば出きるということは確かめることができました。今回の報告は、右の内容を含んでおりますが4.から8.は特に興味のある方だけご覧いただけばと思います。

まず最初に市販のサイフォンでも少し工夫すればサイクロン式抽出をすることができることを示します。私が考案しました「サイクロン式抽出器」がなくても、サイフォンに慣れた方であればサイクロン式抽出をすることができるということです。次に、サイクロン式抽出と松屋式抽出に共通している「抽出されたコーヒーを2倍にうすめて飲む」ということが偶然の一致ではなく、「濃く淹れてうすめて飲む」というより広い抽出原理の具体的な表れであることを示します。この抽出原理は、コーヒーのまろやかな成分としぶみ成分の性質を端的に表現する「まろやか/しぶみ仮説」によっても説明することができます。さらにこの仮説にもとづいて3倍あるいは4倍以上の濃縮コーヒーをつくるための方法も理論的に明らかにします。濃いコーヒーですからエスプレッソのように泡立てミルクとの組合せによる様々なバリエーションができます。アイスコーヒーやコーヒーゼリーも楽に作れます。さらにこの濃縮コーヒーは体積が小さいだけでなく、長持ちもすることから持ち運べるコーヒー、「モバイル・コーヒー」として新たなコーヒーの消費形態が可能です。私と妻はすでに日常この濃縮コーヒーを様々な場面で利用し楽しんでいますので、サイフォンを日常お使いの方にはすぐに濃縮コーヒーの楽しさや便利さを体験することができます。