2000年10月01日
「文藝春秋」2000年8月号の302ページから310ページ
にかけて、
「『夢のリゾート』なんて嘘ばかり
ベトナム人気で観光客が味わう恐怖のサバイバル」
という題名がついた座談会風の読み物があります。椎名玲・坂本行・テリー鈴木・大関薫という方たちが参加されています。
この座談会(風の読みもの)を一言で要約しますと、
「(リゾートとしては)絶対に行っちゃいけないのがベトナム」
くらいになるかとおもいます。
「文藝春秋」の座談会(もしくは「週刊文春」の記事)だけを読みますと、(一見)もっともなことも書いてあります。ですから、へんなふうに納得してしまう方がいるかもしれません。あんいに納得されてしまった方には、「文藝春秋社が発行した『CREA』2000年6月号を見比べてチェックしましょう」と申しあげたいのです。
一例として、ニャチャンの「アナ・マンダラ・リゾート」という ホテルについて書かれた箇所を比べてみます。
ご存知の方も多いかとはおもいますが、文藝春秋社(さん)は「CREA」という女性誌を発売しています。つい2ヶ月まえの2000年6月号の「CREA」では、相当なページ数をさいてベトナム特集を組んでいました。
さて、その「CREA」6月号は、ニャチャンビーチにある「アナ・マンダラ・リゾート」の客室の写真を表紙に掲載しています。本文では、「ニャチャン随一のオン・ザ・ビーチ・ホテル」(p76)といううたい文句ときれいな写真で飾られています。
うたい文句と同じ76ページには、
という文章が付されています。快適な雰囲気であろうことを疑わせない ものといえましょう。人気ビーチリゾートタウンの快適空間
背の高い椰子の木々に彩られた白い砂浜がどこまでも続く。このベトナムで最も有名な海、ニャチャン・ビーチのまっただ中に、アナ・マンダラ・リゾートはある。アナ・マンダラとは、チャム族の言葉で「貴婦人のお客の家」という意味。昔のベトナムの家を模したというコテージタイプの部屋では、アンティーク風のファンがゆったりと時を刻むように回る。"花のベット"やサンサンと光が注ぐガラス張りの浴室、さり気なく置かれたランプがお洒落なレストランなど随所におもてなしの心が行き届いていて、ふとした瞬間に幸せな気持ちになる。
一方、「文藝春秋」の座談会を紹介した「週刊文春」7月20日の記事(p33)によると、「某女性誌の表紙を飾った」ことのある「アナ・マンダラ・リゾート」という件のホテルは、
はやい話、こういうことです。
2ヶ月まえに女性誌「CREA」で特集し、さんざん持ち上げたベトナムリゾートとやらを、会社の名前を冠した月刊誌「文藝春秋」今号の座談会では女性誌もろとも指弾し、週刊誌「週刊文春」の紹介記事にいたっては、自社の出版物こそが「某女性誌」(の一つ)であるという事実に何らふれることなく、堂々と「某女性誌の表紙を飾った……」とのたまい、指弾をくりかえしておられます。
女性誌のベトナム特集をこよなく愛される方にとって、「文藝春秋」8月号の座談会は一見の価値があろうかとおもいます。とくに文藝春秋社発行(←しつこい?)の「CREA」という雑誌の2000年6月号を見て感動してしまった方には、ぜひご一読をおすすめします。
買うまでもありません。個人的には「買ってはいけない」と言いたい(笑)。立ち読みで十分です(もしくは、図書館で読みましょう)。
実情に基づいているのは、女性誌より「文藝春秋」座談会の方です。(女性誌と比べれば)それほど嘘を書いていない、ということもいえるでしょう。
しかし、どこか成り金趣味的な「リゾート」ということばでもって見当違いのベトナム批判している感じで、おかしいとおもいました。
また、
「タイアップで取材しているから(女性誌には)書けない」
とひらきなおっていることについては、あっけにとられてしまいました。
自分たちで取材費を捻出して、いい記事をしあげることことが(原理的には)できるはずなのにね。自費で行けば、すくなくとも、航空会社やホテルにこびない取材ができるでしょうに……。
実態なきに等しい「ベトナムリゾート」をつくりだしてしまった女性誌、恥も外聞もなく「そんなものはベトナムにはない」とばらしひらきなおってしまった「文藝春秋」座談会、どちらもおなじくらいひどい内容だとおもいます。ですが、どちらかというと、「文藝春秋」の方がひどいとおもいます、「CREA」の件がありますから。
最後に、「ここに登場してくる女性誌のライターさんも、文藝春秋社さんも、矜持がないのね」と私はおもったことを、一友人は「この座談会を『CREA』に載せるだけの勇気がほしいわね」と言ったことを、付け加えさせていただきます。
しおたさんの掲示板の過去ログには、私が投稿した記事とフォローがあります(フォローしてくださった方々にあらためて感謝もうしあげます)。
ベトナムの本のページで関係するところを転載しておきます。
2000年07月20日
「文藝春秋」2000年8月号/「『夢のリゾート』なんて嘘ばかり ベトナム人気で観光客が味わう恐怖のサバイバル」 文藝春秋社 |
今号(2000年8月号)の「文藝春秋」の302ページから310ページにかけての記事です。
「『夢のリゾート』なんて嘘ばかり ベトナム人気で観光客が味わう恐怖のサバイバル」 という題名がついた座談会風の読み物で、椎名玲・坂本行・テリー鈴木・大関薫という方々が参加されています。
女性誌のベトナム特集をこよなく愛される方にとっては、一見の価値はあろうかとおもいます。とくに文藝春秋社発行の「CREA」という雑誌の2000年6月号を見て感動してしまった方には、ぜひぜひご一読をおすすめします。
2000年06月25日
「CREA」2000年6月号/「ベトナムの誘惑」 文藝春秋社 |
「CREA」は、A4サイズよりやや幅広の大判のヴィジュアル雑誌で、女性誌といわれています(そうですよね?)。2000年6月号では、80ページちかい枚数をさいたベトナム大特集が組まれました。雑貨や高級ホテル・レストラン・カフェを取りあげたグラビアページが中心になっています。
「よくおもいきって取りあげたなあ、これだけのページ数を使うとは……」というのが第一印象でした。なんにせよ、おおきく特集をくんだことは(個人的に)評価したいとおもいます。
私自身はさほどありがたみを感じないのですけれど、ベトナム雑貨の愛好し高級ホテルに泊まりたいとおもっている人たちには、うってつけのガイドになることでしょう。興味のある方は、書店か文藝春秋社にといあわせるか、図書館でバックナンバーをさがしましょう!
一方、グラビア誌ならではの欠点もあります。
ベトナムの風景がきれいに見えすぎてしまうのですね。多数の読者が好んでいる(正確を期すと、好んでいるということになっている)写真写りと構図にしたがいすぎているのではないかとおもいます。「こういう写真を撮る」ということがあらかじめ決められていて、写真家のお仕事は要望されているとおりに風景を切り取っているにすぎないと感じてしまいます(写真をあつかう技術がたかいおかげで、きれいだが、おもしろみはない)。じっさいにベトナムに行きますと、ごちゃごちゃとしたところがいっぱい目につくはずです。
また、ベトナム人がほとんど現れないカラー写真がたくさんならんでいるというのは、とてもフシギな感じがしました。いかにも演出された写真という雰囲気をにおわせます。1回でもベトナムへ行ったことがありますと、ベトナム人がいない風景はとても不自然なことが実感されて、変だなあと感じてしまうのです。
読者層をかんがえると、モデル(モデルでなくてもいいですが)にアオザイ(アオヤイ)を着てもらった写真が何枚かあってもいいのになあ、という感想ももちました。
以前に「グラビア誌では文章は写真のツマではないのか」と書いたことがあります。数ページのモノクロ文章ページ(8ページあり、わりとよく書けている)をべつにしますと、この傾向はこの特集においても例外ではありません。
フランス語のサブタイトルはまだしも、表紙で「コロニアルな避暑地で、優雅な午後を」と、「コロニアルなホテルで贅沢な時間を」(p47)と、目次で「メコンデルタに誕生したヨーロピアン・リゾート」(p19:目次)と表題をつけてしまう編集・取材の人たちが何をかんがえているのか(ほとんど何も考えていないのか?!)、私にはとうてい理解ができません。恥ずかしくおもわないのでしょうか。
編集・取材の人たちほどではないにしろ、これらのお題を見て何にもおもわない読者の人たち(←少なからずいるとおもわれる)は、恥ずかしい存在です。もう一度もうしあげましょう、恥ずかしい存在です。
( これでもまだわからない人は、まずは辞書で「コロニアル」(colonial)か「コロニー」(colony)という単語を引いて意味を理解し、ついで19世紀から20世紀にかけてのことを書いた歴史の本(わかりやすい本をえらびましょう!でも、まともな本でなければダメです。植民地史の本は適切なのですが、やや専門的すぎることがあります。)をしらべましょう。)